住職の言葉
「今月の言葉」や「法話」一覧ページです。
住職:長谷川岱潤
住職の言葉 - 一覧
2023年9月1日 - ≪今月の言葉≫
大いなる ものが過ぎ行く 野分かな 高浜虚子
大自然の人知を超えた台風(野分)を目の当たりにした、
昭和九年9月21日の室戸台風が上陸した日に詠まれた句です。
古今東西、悲しいことに災害は起こります。
誰かを押しのけるのではなく、手を取り合って生きることが、
人間の美しさなのだと思います。
2023年8月1日 - ≪法話≫
戒法寺ホームページをご覧頂きありがとうございます。
副住職が椎間板ヘルニアになり、永く座ることもできないほどの痛さとのこと、現代の治療はとにかく1ヶ月間絶対安静がいいということで、この原稿は九月と交代することになった。今無理して九月に動けなくなるのと、今安静にして九月は動ける可能性があるのだったらどちらがいいですかと言われてしまえば、九月のお彼岸に備えてもらうしかない。痛みは本人にしかわからないもので、気のどくだとは思うが、なんとも同情するのが難しい病だ。
さてこの暑さ、炎天下にいると必ず思い出す話がある。道元禅師の『典座教訓』の中にある中国での修行中の話だ。炎天下で椎茸を干している老僧がいたので、道元さんが歳を聞くと六十八歳と言う。そこで、そのような仕事もっと若い人にしてもらったらと言うと、「他は是れ我にあらず」他人は私ではないと言う。そこで「日が陰ってからしたら」と言うと、「更に何れの時をか待たん」あとでと言っていて、そのときが来るか。と言われもう何も言えなかったという話です。
「今、ここで、わたしが」なすべき仕事をしっかりとせよ。
いかにも禅宗ぽい教えです。現在六十九歳直前の私は、昔は大変な老僧と思われたのだなあと、別の感慨を持ってしまいましたが、まだまだ若い部類に入る現代の僧侶の世界では、暑さくらい頑張らなくてはと身を引き締める話です。
中国の古典『淮南子』に「塞翁が馬」という話があります。老人の飼っていた馬が逃げ出して、北の胡の国に行ってしまいます。近所の人は「お気の毒に」と言いますが、老人は「なあに、これはいいことですよ。きっと」と言うのです。しばらくしてその馬が駿馬を連れて帰ってくるのです。近所の人は「よかったですね」と言うと老人は、「いやいやこれは悪いことですよ。多分」と言います。すると老人の息子がこの駿馬から落馬して足の骨を折る重傷を負います。また「お気の毒に・・・」と言うと、「なあに、これはきっといいことですよ」と返します。そして案の定、胡の国と戦争になり、若者がみんな出兵し、八割から九割が戦死してしまいますが、息子は無事でした。足が悪いのでかり出されずにすんだからです。ここから「人間万事塞翁が馬」という言葉が生まれたようです。この人間はじんかんと読んで、世間の意味です。
でもこの話多くの人が、「苦は楽の種、楽は苦の種」のように、苦と楽が交互に来ると理解いしているようですが、苦の中にも楽があり、楽の中にも苦があると読むべきだそうです。苦を苦として見つめたとき、他のものが見えてくるということです。
合 掌
2023年8月1日 - ≪今月の言葉≫
白蓮やはじけのこりて一二片 飯田蛇笏
この暑さも、もう峠が見えてきたと思いたい今日この頃
朝花を開き、夕べに閉じるを繰り返し四日目の午後、
水面に花を散らせるという蓮の花。
散ってなお、美しさをとどめる蓮の花
2023年7月1日 - ≪法話≫
7月のお話
戒法寺ホームページをご覧頂きありがとうございます。
6月の25日の夕方、新宿駅の駅員から「山手線の車内で男が刃物を振り回している」という110番がありました。電車は新宿駅に停車し、乗客は一時パニックになり、二人の男性が救急車で搬送され、車内は警報ブザーが鳴り、山手線、中央線、総武線なども一時運転を見合わせ、約一万四千人に影響した事件がおきました。
事件の原因は、五十代の外国人の料理人の男性が、仕事が解雇になり包丁を布にくるんで手で持っていたところ寝てしまい、その包丁がコロンと床に落ち、刃先がわずかに見えたことでした。誰かが「きゃー」「逃げろ」と叫び、後方の車両にどっと押し寄せたことで、叫びもいつしか「包丁を振り回している」「火をつけた」と先日の京王線の事件のようになってしまい大変な事件になりました。
この話を聞いてすぐに、ジャータカ(お釈迦様の前世話集)の中にある「あわてウサギ」(ジャータカ475)の話を思い出しました。海にほど近い丘に住んでいた1羽のウサギが昼寝をしていたら、後ろで「ドスン」という大きな音がしました。ウサギは飛び起き「地球が壊れた」と思い込み走り出しました。それを見た仲間のウサギたちが「どうした」ときくと「地球が壊れた」というので、これは大変だとみんなで走り出しました。そして鹿が、イノシシが、サイが、トラがと、ジャングル中の動物たちが、みんなで走り出したのです。それを見たライオンの王は走っている先頭までゆき、ウサギを見つけ聞きただします。そして「おまえは地球が壊れるのを見たのか」と聞き、見ていないのなら「その場所に確認にゆこう」と、嫌がるウサギに案内させて元いたところに戻ります。そこには椰子の実が一つ落ちていたというお話です。
山手線の外国人の方は、きっと極悪人のように扱われたかもしれません。確かに包丁を鞄にも入れずに手で持っていたのは、不用心だったでしょう。でもその後どれほど怖い時間を過ごしたかを思うと気の毒な気がします。未知なる人々の集団である電車内、隣人が包丁を持っていたら、恐怖はあって当然かもしれませんが、冷静な人が近くに一人もいなかったのかと残念でなりません。
ジャータカが作られたのは今から二千年以上前ですが、その頃から人類は何も変わっていないのだということを思い知らされます。
そして現代では、情報は拡散と同時に拡大してゆくという、もっと悪くなっていることに悲しい気持ちになります。「嘘」とか「偽物」とかと言うより、「フェイク」と言うとかっこよく聞こえてしまう錯覚、人間の質がどんどん落ちているように感じるのは、私の錯覚でしょうか。
合 掌
2023年7月1日 - ≪今月の言葉≫
よい月に背き座頭の納涼かな 伊藤松宇
座頭の納涼とは一般的には死語であり、差別語です。
目の不自由な人たちが主催する追善供養の会です。
その会ではどんなにいい月も、何の力にもなりません。
そこには純粋な本当の納涼があるようです。
2023年6月3日 - ≪今月の言葉≫
明らみて 一方暗し 梅雨の空 高浜虚子
雨雲と太陽が混在す梅雨の情景を絶妙に捉えた一句ですが、
これは私たちのこころも暗示させているのではないでしょうか。
晴れやかな心の一方で、どんよりした心の葛藤。
南無阿弥陀仏と称えて、あたたかいみ光に導かれましょう。