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10月のお話

 NHKテレビ朝の連ドラ「あんぱん」が終了しました。やなせたかしさん夫婦を描いた楽しいドラマで、見た方も多いと思います。脚本家の中園ミホさんが強調されたテーマが、やなせさんが本の題にもされた「正義について」でした。戦争を経験されたやなせさん夫婦にとって、戦前と戦後で逆転してしまった正義について苦しみ、その苦しみの中から生まれた逆転しない正義は、愛と献身だけという結論でした。人間の行動が正義感によるものとしたら、社会性や道徳による正義など、まったくあてにならないものだという、強烈なメッセージです。
 実はこれは仏教でも同じことを言っています。興福寺で有名な「阿修羅」は、なぜあの憂いに見た顔をしているのかがその答えです。もともと天界の正義の神であった「アスラ」には一人娘がいて、アスラはやがては武勇の神であるインドラに嫁がせたいと思っていましたが、インドラはアスラの娘を見た途端ほしくなり凌辱してしまったのです。これにはアスラは怒り狂いインドラに闘いを挑みました。力の神であるインドラにかなうわけもないのですが、負けても負けても何度でも闘いを挑み、その様子に天界の下した結論は、アスラを天界から追放し、魔界に堕とし阿修羅としたのです。どう見ても正義はアスラにあるのですが、天界は闘いを続けることが何よりも悪いこととしたのです。
 その後アスラの娘はインドラの正妻になり、幸せに暮らしていました。正義などすぐに逆転するものだということを、2500年も前のインド神話に書かれているのです。
 どんな人間が幸せになるかについて、遺伝子学者で有名な村上和夫さんは著書『生命の暗号』の中で、「力の強い人、」「競争に勝ち抜いていく人」ではなく、「譲る心を持った人」だとし、結局他人のためを第一に考える人が報われるとしています。遺伝子的にも、人の心は他人のために献身的に努力しているとき、理想的な状態で働き、良い遺伝子がONになるというのです。だから他人のために何かをすることほど、自分に役立つことはないし、自分の心を充実させたかったら、人の心を充実させてあげ、自分が成功したかったら、人の成功を心から望む、こういう生き方をすればいいと言っています。
 大阪万博にも出展した生物学の福岡伸一さんは、生命の動的平衡を主張され、利己的な縄張り意識の生命感から個と個を尊重する種に奉仕する生命観に成長したのが人であり、それは利他に通じるものとして、これこそが将来を生き抜く生命観としています。
 仏教でも幸せになることは、自身の欲望をかなえることではなく、人が幸せになることを願う利他の心としています。正義や主張ではなく、愛と献身の心こそが大事なのです。

合 掌