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7月のお話

 戒法寺ホームページをご覧頂きありがとうございます。
 6月の25日の夕方、新宿駅の駅員から「山手線の車内で男が刃物を振り回している」という110番がありました。電車は新宿駅に停車し、乗客は一時パニックになり、二人の男性が救急車で搬送され、車内は警報ブザーが鳴り、山手線、中央線、総武線なども一時運転を見合わせ、約一万四千人に影響した事件がおきました。
 事件の原因は、五十代の外国人の料理人の男性が、仕事が解雇になり包丁を布にくるんで手で持っていたところ寝てしまい、その包丁がコロンと床に落ち、刃先がわずかに見えたことでした。誰かが「きゃー」「逃げろ」と叫び、後方の車両にどっと押し寄せたことで、叫びもいつしか「包丁を振り回している」「火をつけた」と先日の京王線の事件のようになってしまい大変な事件になりました。
 この話を聞いてすぐに、ジャータカ(お釈迦様の前世話集)の中にある「あわてウサギ」(ジャータカ475)の話を思い出しました。海にほど近い丘に住んでいた1羽のウサギが昼寝をしていたら、後ろで「ドスン」という大きな音がしました。ウサギは飛び起き「地球が壊れた」と思い込み走り出しました。それを見た仲間のウサギたちが「どうした」ときくと「地球が壊れた」というので、これは大変だとみんなで走り出しました。そして鹿が、イノシシが、サイが、トラがと、ジャングル中の動物たちが、みんなで走り出したのです。それを見たライオンの王は走っている先頭までゆき、ウサギを見つけ聞きただします。そして「おまえは地球が壊れるのを見たのか」と聞き、見ていないのなら「その場所に確認にゆこう」と、嫌がるウサギに案内させて元いたところに戻ります。そこには椰子の実が一つ落ちていたというお話です。
 山手線の外国人の方は、きっと極悪人のように扱われたかもしれません。確かに包丁を鞄にも入れずに手で持っていたのは、不用心だったでしょう。でもその後どれほど怖い時間を過ごしたかを思うと気の毒な気がします。未知なる人々の集団である電車内、隣人が包丁を持っていたら、恐怖はあって当然かもしれませんが、冷静な人が近くに一人もいなかったのかと残念でなりません。
 ジャータカが作られたのは今から二千年以上前ですが、その頃から人類は何も変わっていないのだということを思い知らされます。 
 そして現代では、情報は拡散と同時に拡大してゆくという、もっと悪くなっていることに悲しい気持ちになります。「嘘」とか「偽物」とかと言うより、「フェイク」と言うとかっこよく聞こえてしまう錯覚、人間の質がどんどん落ちているように感じるのは、私の錯覚でしょうか。       

合 掌